器のなかに、物語がある
食卓に並ぶ器。
本来料理をのせて完成するはずのプレートですが、そのままでも目を奪われるようなプレートがあります。
描かれた線や色、配置されたモチーフはまるで、ページをめくるように広がる「物語の世界」。
そんな絵本のような器を生み出したデザイナー、ライヤ・ウオシッキネン。
北欧デザインの食器はシンプルで機能的で、インテリアになるようなたたずまいが主流ですが、
それとは少し異なり、彼女の手による器は、インテリアというよりは、絵画に近い雰囲気。
物語と感情が静かに息づいているようにおもえます。
ウオシッキネンとはどんな人?
ライヤ・ウオシッキネンは、アラビア社で長年にわたり活躍した装飾デザイナー。
1950〜1980年代という北欧デザインの黄金期に、独自の世界観を持つ作品を数多く手がけました。
もともとはイラストレーターとしての視点を持ち、器という立体物に「絵を描く」ように装飾を施すのが彼女のスタイル。
色味を抑えた繊細な線画と、見る人の想像をかき立てる豊かなストーリー性が、彼女の作品の最大の魅力です。
絵本のような代表作たち
■ Emilia(エミリア)
まるで古い絵本のような、ノスタルジックな世界が広がる「Emilia」シリーズ。
庭で友人とお茶を楽しむ老婦人や、ハンモックでくつろぐ姿など、20世紀初頭の“理想のアメリカ”を繊細な線画で表現。
アメリカに移住したおばの暮らしから着想を得て描かれた、詩的でノスタルジックな磁器コレクションです。
白地に黒のプリントが特徴ですが、紫・茶・緑の彩色が施された希少なバージョンは、コレクターの間でも人気があります。
1959年から1966年にかけて製造され、フォルムはカイ・フランクによるもの。全18種が展開された、物語のあるシリーズです
■ Kalevala(カレワラ)
フィンランドの国民的叙事詩『カレワラ』をテーマにした、アラビア社のコレクターズプレートシリーズ。1976年から毎年1枚ずつ制作され、各年ごとに異なるエピソードや登場人物が描かれています。
デザインは、ネイビー、ブラック、ブラウン、そしてゴールドを基調とした落ち着いた色彩で構成され、幻想的かつ神秘的な世界観を表現。重厚な筆致と精緻な構図によって、神話に登場する神々や英雄たちの物語が深みのあるアートとして描かれています。
プレートの裏面には、それぞれの絵柄に対応する『カレワラ』の詩の一節がフィンランド語で印刷されており、物語の背景をより豊かに感じられる仕掛けになっています。アート作品としてはもちろん、フィンランド文化や神話に触れるきっかけとしても魅力的なシリーズです。

■ Joululautanenクリスマスプレート
1978年から1989年にかけて発表された「クリスマスプレート(Joululautanen)」は、ライヤ・ウオシッキネンの代表的なシリーズのひとつ。青・白・金の3色で、冬の物語を描いた直径23cmの陶器製プレートは、毎年新しいデザインで登場しました。静けさと温かみが同居するその世界観は、見る人の心にやさしく寄り添います。あなたのお気に入りの一枚は、どの年のプレートでしょうか?
器で語る、暮らしのなかのストーリー
ウオシッキネンの器が持つ魅力は、その美しさだけではありません。
彼女の器は、私たちの暮らしの中にそっと寄り添い、小さなストーリーを添えてくれます。
静けさのなかに、さりげないユーモアや優しさがある。
見るたび、手に取るたび、少しずつ心がほどけていく。
それはまるで、絵を“観る”のではなく、“感じる”ような体験。
日常的に使う器ではないですが、忙しい毎日の中でも、ふと器に目をやるだけで、心がゆるむ瞬間があります。
それは、まるで「おとなの絵本」に出会ったような時間です。
コメント